ジェイド リーチ pixiv。 #twst夢 #not監督生 ジェイド・リーチを探しています。

#ジェイド・リーチ #女監督生 ジェイド・リーチは拗らせたい!

ジェイド リーチ pixiv

シャンデリアの煌びやかな光の下で輝く透き通るような金糸、毛先に向けて淡い藤色へと変わるグラデーションも彼の美しさを引き立てる。 ぴしっと伸びた背筋も、キリッと前を見据える麗しい瞳も、言葉選びの一つ一つだって美しいと思う。 ヴィルさんは、ボクの憧れだった。 「ヴィルさん、明日のご予定ですが……」 「えぇ、分かってるわ」 そんなボクの憧れのヴィルさんの周りを、ここ最近ずっとウロチョロしている人がいた。 あれは確か、オクタヴィネル寮のリーチ先輩。 ちゃんと接触したことはないけれど、先輩は有名だから一方的に知っている。 二年生ながらにオクタヴィネルの副寮長、物腰が柔らかく紳士的で頭も良く、何でも卒なくこなす器用さ。 それでいてあの見た目。 ヴィルさんだってスラリと背が高いのに、それよりさらに高い位置に頭がある。 噂に聞いた限りだと、リーチ兄弟は人魚らしく、元の姿に戻った時は更に大きいというのだから驚きだ。 「……やっぱり、綺麗だ」 ヴィルさんは勿論、隣に立つリーチ先輩も。 見た目だけじゃなくて身のこなしまで洗練されているというか、隙がないというか。 ヴィルさんとはまた違った綺麗な人だ。 一番は絶対的にヴィルさんだけど。 遠くから寮の談話室へと向かっていく二人を眺めていると、不意に憧れの人の髪より濃い金色をした瞳と視線が交差した。 何も悪いことはしてないのに、ドキリと悪戯が見つかったような気がしてそわそわする。 そんなボクの心情など知る由もないリーチ先輩は、目線だけこちらに寄越したまま口元を緩めた。 「……見てるの、バレてた?」 「誰に?またヴィルサン?」 「わっ、エペル……!」 ボクよりも少し低い位置から突然話し掛けられて肩を跳ねさせた。 女の子と間違えそうな程愛らしい顔立ちで下から覗き込まれる。 もう慣れたけど初めは毎度ドギマギしてたな、と少し前までを思い出して笑いそうだ。 中身の雄臭い部分を知ってからはもう緊張する方が馬鹿らしくなっちゃったけど。 ヴィルさんが消えていった方を見ながら、そういえばエペルはリーチ先輩が来た初日の教育係みたいな立場だったことを思い出した。 「ねえエペル、リーチ先輩ってどんな人だった?やっぱり怖い?」 「え?……あぁ、ジェイド先輩か。 うぅん、そうだな……物腰は柔らかいし何から何まで完璧で、僕からは何も教えることがないくらいで……」 「わあ、すごいなあ、やっぱりヴィルさんに認められるだけあるなあ」 「君はほんとに寮長好きだね」 「へへへ」 そりゃあそうだ。 自分にも他人にも厳しい人だから、決して優しいばかりじゃないけれど、それでも厳しい態度や言葉の中にはしっかりと意味が込められている。 芯が通ってる。 見た目倒しじゃないその生き様の美しさにボクは憧れた。 好きじゃないわけが無い。 だからこそ、そのヴィルさんに認められたあの人が一体どんな人物なのか気になって仕方ないのだ。 ボクも彼のようになればヴィルさんに認めて貰えるのだろうか?人それぞれ出来ることは違うから全く同じにはなれないだろうけど、それでも気になるものは気になる。 彼のことが知りたい。 最近のボクの頭の中は、そればかりだった。 * そんなボクの思いが届いたのか、なんとリーチ先輩と接近するチャンスが訪れた。 寮内でちょっとした大掃除をしていたのだが、大量の本を抱えて運んでいた所リーチ先輩が声を掛けてくれたのだ。 自分の背丈より高く積み上げた本のせいで先輩がどこに立っているのかも曖昧であたふたしていると、半分以上ごっそりと奪われた。 ようやく開けた視界と安定する足元にホッと息を吐く。 改めて見上げると、いつも一緒にいるのが自分とほぼ同じサイズであるエペルなこともあって、その大きさにびっくりする。 「どちらまで?」 「地下にある書庫に運びたいんですけど……すみません、手伝わせちゃって。 こんなの一年の仕事なのに」 「お安い御用ですよ」 にっこりと綺麗に笑うリーチ先輩に、なんだいい人じゃんと噂に混ざっていた彼への恐怖や偏見の入った言葉達を笑い飛ばした。 ヴィルさんにはいつもすぐに他人を信用するのやめなさいって怒られるけど、リーチ先輩は今ポムフィオーレの人みたいだし、もしかしたら転寮するのかもしれないし、他人じゃない。 こんなただの一年にも優しく接してくれるなんて!流石ヴィルさんに認められた人だ!と内心感動しながら地下書庫の入口への扉を開いた。 ポムフィオーレの人は綺麗好きな人が多いので小まめに掃除はしてあるけど、ここは普段使われないこともあって流石に少し埃っぽい。 また今度掃除しなきゃなあ、と思いながらリーチ先輩を中へ導く。 相変わらずニコニコと綺麗に笑っているリーチ先輩は、ボクより沢山の本を持ちながら軽々と入ってきた扉を丁寧に閉めた。 どうせすぐ出るのに小まめな人だ、ボクも見習わなくては。 「重たかったでしょう、助かりました。 ここの机に置いといてください」 「かしこまりました」 手に持っていた少量の本を先に本棚へと戻しながらリーチ先輩にお願いすると、とん、と机の上に大量の本を積み置き、相変わらずな笑みを崩さない。 綺麗な深い海の色をした髪の毛が、こんな地下の古ぼけた電灯の下でも美しく、片耳でキラリと輝くピアスがまた海の底で輝く宝物のようで、何だか神々しいものに見えた。 美しい人には近寄り難いと言うが、本当にそう思う。 ぼうっと先輩を見つめていたらボクの方に向き直り、ニッコリとそれはそれは心底楽しそうな笑みを浮かべた。 なんというか、先ほどまでの綺麗な笑みと違って、なんだろう、どこか意地の悪そうな……?こんな表情を見るのは初めてで、どういうことだろう、ヴィルさんはこういう顔を見せられた時どう対応しているのだろう、とここにはいない憧れの人のことを思った。 「それで?ここまで手伝った対価として、あなたは何をしてくれるんです?」 「……え?対価?」 「えぇ、もちろん。 タダほど怖いものはないんですよ、何かをするならそれ相応の対価を頂かないと。 後腐れなくしておいた方があなたも良いでしょう?」 「な、なるほど……!」 つまり、ボクが後で申し訳なく思わないように気を使って、対価を払えと要求しているのか。 なんて優しい人だろう。 流石ヴィルさんに認められた人だ。 ボクみたいな本を一人で運ぶことすらままならない一年生にも親切にしてくれる上に、アフターケアまでしてくれるなんて!一人この感動を噛み締めていたので、一歩、また一歩とリーチ先輩がこちらに近付いてきていることには気が付かなかった。 「あなた、最近よく僕のことを見ていましたよね」 「ひえっやっぱりバレてた……!すみません、悪気はないんです……!」 「えぇ、悪意がないことは視線から分かっていますし結構なのですが……それで、少しは僕のこと意識してくれました?」 「意識、ですか……そうですね、ヴィルさんと並ぶとやっぱり双方美しさが際立つなと思いました……」 「そうですか」 ここ数日、リーチ先輩を見ていて思ったこと。 背が高くて羨ましい。 髪の色がまるで彼の出身の海の底を思わせるようで美しい。 瞳が暗闇でも輝く宝石みたい。 丁寧な物腰や落ち着いた話し方は自分とは違って大人びて見えて憧れる。 それから、それから。 次々と浮かんでくる先輩について思ったことを述べていく。 一歩、また一歩と近付いて、気がつけばリーチ先輩がすぐ眼前まできていた。 背の高い先輩の影で、ボクの体はすっぽりと覆われてしまう。 先輩が長い腕を曲げながら、まるで密着するようにボクの顔のすぐ隣を通って本棚に肘をつく。 急に近くなった距離にびっくりして、思わず手に持っていた最後の一冊の本をぎゅっと抱き締めた。 何だか妙に恥ずかしくて顔を見ることが出来ない。 「それから?他には?」 「え、と……どうすれば、あなたに近づけるかな、って……」 「僕に近づきたいですか?」 「はい、そしたらきっと、ヴィルさんも……」 ヴィルさんの役に立てる、憧れのあの人に認めてもらえる。 そう言おうと途中まで紡いだ言葉は、腕の中から突然本を抜き取られたことで遮られる。 あ!と驚いて引っこ抜かれた方へと顔を向けると、リーチ先輩が上から片手で本を奪い取っていた。 意地悪そうに尖った歯を見せて笑っているのに、その瞳の奥に心底嬉しそうな色が見えるのが不思議で、ボクに彼を理解出来る日が来るのはまだまだ先なのかもしれない。 そう思ったと同時に、唇を柔らかな感触で覆われる。 少し湿っていて、ボクの体温より僅かに低いそれは、唇の感触を確かめるように数度柔く食むと、一度離れてまた深く覆われる。 視界にはリーチ先輩の伏せられた瞼と長いまつ毛くらいしか把握できるものがない。 キスをされている。 そう理解出来たのは散々唇で遊ばれ、ちゅっと音を立てて離れてからだった。 「……え、え……?」 「対価の話ですけど」 「えっ待ってください今その話ですか……?あれ……?」 「本を手伝った対価として、僕のこと名前で呼んでくださいね。 リーチだとフロイドもいるので」 「あ、あれ……?それだけですか?」 「おや、もっと激しいのがお好みで?」 「ちがっ……いや、それより今のき、きす……は、対価ではなく……?」 「キスは僕がしたかったからしただけです」 それじゃ、後は頑張ってくださいね。 そう言って抜き取った本を正しい位置に直しながら、長い脚で入口の方へと歩いていき、いつの間にか掛けられていたらしい内鍵を外して扉を開けた。 くるりと一度ボクの方へと向き直る。 びくりと思わず震える。 楽しげに、それでいて優しさを含ませた目で見つめられ、ドキリとしたのは緊張からか、何なのか。 「僕に近づきたいのなら、もっと近くで見てくれて構いませんよ、これからも」 そう言って、今度こそ部屋から出ていった。 彼の足音が聞こえなくなって、ドッと心臓が一気に騒ぎ出す。 なんだったんだ、今のは。 夢でも見ていたのだろうか。 まさかリーチ先輩、いや、ジェイド先輩にキスをされるなんて。 どういう気まぐれなのだろう。 人魚って定期的に人とキスをしないといけないとか、そういう習慣があるの? 彼のことを知りたいと思って見てきた結果、更に彼のことが分からなくなった一日だった。 ついでに言うと、次に一体どんな顔して先輩のことを見ればいいのかも分からない。 * 「あらジェイド、アンタどこに行ってたの?」 「寮生が少しお困りのようでしたので、お手伝いを」 「……アンタがタダで手伝うわけないわよね、何を企んでるわけ?」 「まさか、親切心ですよ」 「……まあいいけど、うちの子には手を出さないでちょうだいね、面倒だから」 「それはどうでしょう」 「薄々気付いてたけど、アンタがわざわざうち選んだのってちょっかい掛けたい子がいるからでしょ、やめなさいよね!」 「ふふふ」 「もう解雇よ解雇!明日のパーティ終わったら解雇だから!」 ヴィルさんの話を受け流しながら、入学式のあの日を思い出す。 監督生さんの騒動で周りは持ちきりだったが、僕の中ではそれよりも大きな衝撃が走ったこと。 アズールがリドルさんと共にグリムさんを追い掛け回している間でさえ、ずっと目が離せずにいたのはポムフィオーレの新入生の列へ並ぶ生徒の一人だった。 式典服のフードのせいではっきりと顔が見えたのは一瞬のこと。 それでも僕の瞳ははっきりと彼を捉えて、それから脳にこびりついて消えてくれなかった。 あの頭のてっぺんから雷を落とされたかのような衝撃は一生忘れることはないだろうし、きっとあれ以上に心が震える感覚は一生訪れないだろう。 愚かにも初対面どころか話してすらいない相手にそう確信するほどの出会いだった。 その日は一日熱に浮かされたかのように体の奥が熱くなって、ふわふわと地に足つかない心地がしていたのを今でも覚えている。 そして次の日には、さてどう距離を詰めようかとずっと狙いを定めてきた。 ようやく巡ってきた獲物を捉える絶好のチャンス、逃すのはよほどの愚か者でしょう?指で唇を一撫でして、さて次はどう踏み込もうかと思案した。

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#ジェイド・リーチ #男主人公 ポム寮主とジェイドの話

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最初の印象は、とてもつまらない女だなということだった。 魔法が使えないのに事故でこの世界に来てしまったという少女は、無表情で無感動。 いつもボケーっと風景を見ているような子で、陸の生物としての興味もそこまで湧かなかったのを覚えている。 そんな彼女が、瞳をキラキラさせてこちらを見つめていたので、ジェイドは面食らった。 怖がられることはあっても感動されたことなどない。 人魚の世界でも異質な上半身にも色濃く魚の特徴を残した自分と片割れの姿を、たった今まさに自分たちから害されている側の少女が見ている。 まるで新しいおもちゃを貰った子供のような瞳で、口からは感嘆の声を漏らしながら。 その瞬間、ジェイドはその少女に滅法興味を持ってしまったのだ。 「おや、監督生さん」 「……あぁ、ジェイドさんですか。 こんにちは」 「こんにちは。 今日はどちらの授業に?」 「魔法史です」 「同じですね。 ご一緒しても?」 「?はい」 あの事件から数日。 あの瞬間確かに光を宿した瞳は、今はもう見る影もない。 肩に乗るグリムを気にする素振りもなくスタスタとジェイドの前を歩く少女に、ジェイドは静かについて行った。 会話はない。 特に会話らしい会話もなく教室に到着し、先に教室にいたフロイドが「小エビちゃーんこっち」と呼ぶのにしたがって、監督生はその隣に座った。 ふむ、とジェイドは思考する。 どうすればあの日のような無邪気な子供のような顔が見られるのかと。 しかし、そもそもあの日の表情の理由が分からないので、ジェイドは困った。 なぜ見たいのか、そんな自分の感情の理由は全く気にしていなかった。 「フロイド、貴方監督生さんとは仲がいいので?」 「んえ?別に?会えば話すけどわざわざ話しかけには行かねーよ」 「彼女の笑った顔を見た事は?」 「……ねえかなぁ。 それを足を振って引き剥がしながら、ジェイドは考える。 やはり彼女は誰に対しても この一般からしたら鬱陶しいと言われる片割れに対しても 無表情らしい。 しかし、自分はその無表情に対して面白いとは思わないがフロイドはそれが面白いようで、ことある事に構っている様だ。 「あの時のような顔がもう一度見たいんですがねぇ」 「あの時?いつ?」 「僕たちが人魚に戻った時、一瞬こう、目が輝いたというか」 「うっそぉ、オレ気付かなかったけど。 ジェイドよく見てんね」 「いや、目に入ったというか、なんというか」 「よっぽど小エビちゃんのことばっか見てたんでしょやらし〜」 「……え?」 「だから、ずっと見てたから気付いたんでしょ」 「…僕が、監督生さんを?」 「え、逆にそれ以外ある?ジェイド小エビちゃんが近くいるとスッゲー見るじゃん」 「……」 「気付いてなかったの?恋じゃん」 「コイ?」 「恋」 「僕が?監督生に?」 「だからそうだってめんどくせーな」 振りほどかれたフロイドがジェイドに向かってうげぇと顔をしかめる。 甘ったるくて胸焼けがした。 あの子のことが気になって目が離せないんですと告白されたような気分だったのだ。 当の本人は全く気付いていなかったけれど、近くにいた第三者のフロイドは気付いていた。 きっとアズールも気付いている。 ジェイドはフロイドに言われて、そして急に腑に落ちてしまった。 そして後悔した。 ああ、なんてことだ。 壁しかない。 彼女はそもそも人間で、異世界の住人で、陸の生物で、年下で、この学園唯一の女子だ。 「一番選ばない方がいい相手を選んでしまいましたね」 「え?なんで?」 「だって監督生さんは陸の方ですし…」 「あ、ちょいまち、双子だから分かったわ何考えてるか。 なるほどね、完全に理解した」 「してませんよね」 「してないけどした。 てかさぁ、どうでも良くね?小エビちゃん人魚にするかジェイドが陸に住めば解決。 異世界に帰るってなったら行き来できるようにしたら良くね?」 「簡単に言いますね」 「簡単でしょ。 自分が好きな相手が自分のことを好きになってくれる確率よりも何万倍も楽勝。 やりゃできる」 「……確かに。 フロイドは天才ですね」 「もっと褒めていいよ」 「とりあえず今から男子会開いても?」 「待ってましたァ」 ジェイドはフロイドがなんてことは無いとあっけらかんと言うので、ついさっき浮かんだ壁を全て壊した。 どうでもいいでは無いかそんなこと。 女子なのは幸い、異世界とか正直なんとかなるだろうし、魔法が使えるから好きになったわけじゃないから関係ないし。 何だ、なんの壁もない。 取り急ぎジェイドが気にしなければいけないことは、監督生が自分に興味がないであろうという事実だけだった。 なので、男子会を開くことにした。 ジェイドの言葉でフロイドが飛び起きて壁を叩く。 アズールの部屋に繋がる壁だ。 ドンドンドンドンドン叩きながら「酒とツマミ!!!!!!」と叫んだ。 これがこの3人の「男だらけの限界飲み会」の合図だったので。 数分もすれば双子の部屋の扉がバン!と開いた。 手に大量の酒とツマミを持ったパジャマ姿のアズールが居た。 「寮長をウーバーイーツ扱いとは偉くなったものですね」 「一番ノリノリの癖して何言ってんの?会場に入る前に正気失っといて」 「母さんの子宮に置いてきました」 「最高」 アズールはスタスタ部屋の真ん中に歩いてきて、手に持っていた物をドサドサ置いた。 会場の完成だった。 その酒やらツマミやらを3人で囲んで、とりあえず乾杯する。 絶対3人のうち誰かがグラスを割るので、限界男子会は基本ブルーシートの上で行われた。 最初の乾杯でフロイドがグラスを割った。 「で?議題は?」 「ジェイドが小エビちゃんに恋したって」 「え?結婚するんですか?」 「誰がそこまで言いましたか。 なんとなく気になるかもと言うだけです」 「オスのくせになにカマトトぶってんですか。 本音で話しなさい本音で。 かじりとる歯」 「普通に好き」 「はい結婚おめでとう」 「小エビちゃんが義妹かぁ」 男たちは適当だったので、2回目の乾杯をした。 今度はアズールがグラスを割った。 「いや、監督生さん僕に興味なくないですか?」 「逆にあの子興味持ってる人間いるんですか?」 「いないだろうね。 つまりスタートラインは一緒。 スタートダッシュキメてそのまま式場までトップ独走しようぜ」 「でも、ほら、あのハーツラビュルの一年生の二人とか…」 「あれはどっからどう見てもダチでしょ。 男女って感じしねーもん」 「仲のいいお友達程度に負けていいんですか」 「それでもウツボかよ」 「関係ないでしょうが」 ジェイドは酒を飲みながら話していて、つい30分ほど前まではただの少し気になる後輩だった監督生が「好きな女の子」になっていくのに戸惑った。 話せば話すほど、あれ?自分かなり監督生のこと好きでは?と思ってきてしまったのだ。 なんだか流されたようで腑に落ちないところもあるが、そもそもただの後輩に流されて恋しちゃったかもなんて言うようなタマではないので、その辺はフロイドとアズールも「あ、わりと本気じゃん」と思った。 なので、安心して押した。 「とにかく小エビちゃんにも意識してもらわないとなんも始まんなくね?通えば?」 「どこに」 「オンボロ寮」 「一人で住んでる女性のところへ通うのはあまり感心しませんが時と場合によりますからね」 「アズール的にはこの理由で通うのはアリ?」 「ありよりのあり」 「肯定しかしてねぇじゃんウケる」 「僕抜きで話進めないでください」 「だって臆病なウツボがチキってんだもん。 通うかモストロ通ってもらうか選べ」 「……モストロで」 「はいチキリーチ。 通うくらいの度胸みせろや」 「うるさいですよ童貞・リーチ」 「あなたたちお互いに言ってて虚しくないですか?」 「虚しい。 心に傷を負った。 明日モストロ休みます」 「僕も休みます」 「こらこらこら」 三人寄れば文殊の知恵とは言うけれど、男三人寄れば酒とツマミが減るばかりで建設的な会話などされないのが世の常だった。 しかも男子高校生なので、隙あらばふざける。 結局ジェイドは特にいい案も貰えず、ただただ自分が監督生を好きになってしまったことを幼なじみと片割れに暴露するだけで終わった。 ただの公開処刑じゃないですか、とジェイドがボヤいたけれど、フロイドもアズールも愉快犯なので気にも止めなかった。 いいぞ、もっとやれ、ついでに大失敗して嫌われろ。 悲しいかな、ダチの恋愛劇ほど面白いもんは無いのである。 フロイドは二日酔いで死んでいた。 もちろんジェイドも死んでいるのでバーカウンターの中でボケーッとしている。 二人ともしっかり死んでいたので、急に来た監督生になんの反応も出来なかった。 ジェイドに至っては気付いてすら居ない。 フロイドは偶然入口を通り掛かって、偶然監督生に声をかけられて、昨日の話を思い出した。 考え事をすると頭が痛むので、本当は何も考えたくなかったけれど、片割れの恋路は応援したいので。 なのでフロイドは特にジェイドには何も伝えず監督生をバーカウンターの席に案内した。 ジェイドは監督生が目の前に来てやっと気付いて、聞いたこともないような声を口から漏らしていた。 「ジェイド先輩、こんばんは」 「こ、こんばんは。 珍しいですねモストロにいらっしゃるの」 「今日はジェイドさんが珍しくバーカウンターに居たってさっきエースに聞いたので」 「へ、」 「普段はフロイド先輩なんですよね?せっかくなんで暇だったし見に来ました」 「そ、それはそれは、光栄ですね」 そういえばさっき、ハーツラビュルの一年生がいた気がする。 その友達から話を聞いて、自分を見に来たのだという監督生にジェイドは心臓を撃ち抜かれた。 あ、もう普通に好き。 昨日も思ったけれど、やはりあれはその場のテンションとか酒の勢いではなかったようだ。 しっかり監督生の事が好きだった。 監督生はジェイドにドリンクを注文して、ボーッと水槽の中を眺める。 ずっと表情は無だったけれど、何にも興味のなさそうな監督生が特にたくさん魚が泳いでいる訳でもない水槽を眺めるのが不思議だった。 「お好きですか?魚」 「魚…というか海が好きなんですよね」 「おや、監督生さんは海派ですか?」 「だって、あんなに広くてあんなにたくさんの生き物がいて、あんなにしょっぱいの不思議じゃないですか?」 「ふふ、確かに言われてみれば」 「先輩たちが陸に憧れたり興味を持ったりするのと一緒なのかもしれませんね」 ジェイドは会話を続けながら、無表情だけれど無口では無いのだなと思った。 興味のないことを喋らないので無口だと思われがちな監督生だったけれど、別に無口ではないのだ。 面倒臭がりで特に率先して話すタイプではないだけ。 監督生のことを自分はそんなによく知らないのだな、当たり前だけれど。 ジェイドはそう思って、新しい監督生の一面を知れたことを嬉しく思った。 知らなかったことを悲しむ余裕なんてないので。 今は監督生という女性のことを知って、そして向こうにも自分のことを知ってもらう時期だとジェイドは思っていた。 「僕たち人魚の中には将来陸へ上がって人間になるのが夢だという人もいますから、陸への憧れは誰しも少なからず持っていますねぇ」 「気持ちわかるなぁ」 「というと?」 「…恥ずかしいのでナイショですよ」 「はい」 「私、昔は大きくなったら人魚姫になりたかったんです」 監督生は無表情のままだった。 無表情のまま、少しだけ恥ずかしそうな声色で、こっそりジェイドにそう言った。 ジェイドはその仕草が目に焼き付いて離れなかった。 知らない一面を知りたいとは言ったけれど、こんなにも破壊力のあるものはまだ自分には耐性がない。 その様子を遠くから見ていたフロイドは終始ニヤニヤしていた。 双子であるが故にジェイドが平気そうに見えて内心焦りまくっているのが分かったので。 「私たちの世界では人魚は空想上の生き物ってことになってるんですけど、物語?の中で人魚姫の物語があるんですよ。 それを小さい頃に読んで、その時に大きくなったら人魚姫になりたいなぁって思ったんですよね」 「そ、そうですか、」 「はは、似合いませんよね」 「そんなことないです!」 「へ、」 「お似合いですよ、とても、監督生さんは声が綺麗ですし、それに髪も美しい、人魚姫は代々そういう人魚が選ばれるので、監督生さんが人魚だったら、きっと、」 ジェイドは必死に話した。 似合わないなどと言って少しだけ悲しそうな表情をした監督生に、そんなことは無いと熱弁した。 熱弁して、ハット我に返る。 これは結構、いやかなり鬱陶しいのでは?やってしまったと落ち込みかけたジェイドの目の前で、監督生は目をぱちくりさせていた。 そして、監督生は堪えきれないと言うようにふふっと笑った。 「ありがとうございます、ジェイドさん」 ほんの数秒顔を綻ばせて笑った監督生を、ジェイドはしっかりと見た。 あの日のように目を輝かせた子供のような表情ではなかったけれど、嬉しそうに笑う少女のような表情だったけれど、ジェイドはそれが見れたのが嬉しくてたまらなかった。 こんな顔で笑うのか、と優越感すら覚えた。 きっと、近しい人しか見たことがないのだろう。 直ぐに無表情に戻ってしまった監督生の視線は、また水槽に向かった。 「あの、監督生さん」 「はい」 「僕今から水槽の魚に餌をやるので、少し離れますね」 「あ、はい、エサ?」 「モストロではこの時間に餌やりをするので」 ジェイドはそう言うとさっさとバックヤードに戻った。 もちろん嘘である。 基本的にエサは営業後にお客がいない時にあげるので。 しかも、ジェイドは人前で人魚姿になるのを嫌った。 プライドが高いので、見世物になるのを嫌がったからだ。 けれど、そんなジェイドの思春期故のプライドはゴミ箱に突っ込まれた。 彼女が笑ってくれるかもしれないと思えば行動しない理由がなかった。 ジェイドはあっという間に寮服からタオル一枚腰に巻いただけの姿になって、通路を通って水槽の上まで来た。 そのままボチャンと飛び込んで、人魚姿に戻る。 店内にいたお客はなんだなんだと水槽の前に集まってきた。 ジェイドは、その中から小さな少女を探す。 バーカウンター、いない。 テーブル席に移った?いない。 キョロキョロと、理由にした餌やりをすることもなく、少女を探した。 「わぁ」 聞こえるはずのない声が聞こえたような気がした。 そこには、水槽にぺたりと手をつけて、ジェイドを見つめる瞳があった。 キラキラとした瞳の中に、少しばかりの感嘆を込めて、ジェイドを見つめていた。 ジェイドはゆらりと尾びれを動かして、監督生の前まで泳ぐ。 ガラス越しに目が合った。 監督生はじいっとジェイドを見つめたあと、口をパクパク動かして、そしてニコリと笑った。 「キレイ」 聞こえなかったけれど、きっとそう言ったと思った。 キレイだとジェイドを見つめて呟く監督生を見て、ジェイドはどうしようもなく胸がむず痒かった。 人魚になってたけど」 「ふーん、いいなぁ、俺がいた時にやってくれたら良かったのに」 監督生は廊下を歩く。 肩にグリム、左隣にエース、右隣にデュースがいた。 監督生は昨日のジェイドを思い出して、そして少しだけ笑った。 「キレイだった。 好きだなぁ、ジェイド先輩」 「……趣味悪ぅ」 「監督生、ずっとそればっかだな」 聞き飽きたと言わんばかりにエースが顔を顰めて、恋する乙女を見守るようにデュースが笑いかけた。 二人は知っていた。 監督生はあのジェイド・リーチに恋をしているのだと。 それを全く周囲に悟られることもなく、仲のいい自分たちだけに告げて、今はまだ片想いを楽しんでいるのだと。 「女子って訳わかんねぇ。 片想いって楽しいの?」 「楽しいよ」 「向こうの気持ちわかんなかったりして辛くないか?」 「……向こうの気持ちはわかんないけど、好きにさせるからいい」 「げぇ、肉食、ジェイド先輩かわいそ」 監督生はそう言うと、いつもの無表情に戻った。 無表情だからといって、感情が無いわけじゃない。 監督生はちゃんとジェイド・リーチに片思いをする少女だった。 好きな相手の新たな側面を知れば、そりゃ目を輝かせたくもなる。 ジェイドは気付かないだけで、まんまと監督生に惚れさせられたのだ。 監督生は片想い期間を十分に楽しみたいタチであった。 だからこそ、ジェイドは監督生がまさか自分に興味があるだなんて思いもよらなかったのだ。 恋心に目覚めたばかりの恋愛初心者、ジェイド・リーチがそれを知るのはまだ先の話である。

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#ツイステッドワンダーランド #ジェイド・リーチ 巡る星、灯る熱

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シャンデリアの煌びやかな光の下で輝く透き通るような金糸、毛先に向けて淡い藤色へと変わるグラデーションも彼の美しさを引き立てる。 ぴしっと伸びた背筋も、キリッと前を見据える麗しい瞳も、言葉選びの一つ一つだって美しいと思う。 ヴィルさんは、ボクの憧れだった。 「ヴィルさん、明日のご予定ですが……」 「えぇ、分かってるわ」 そんなボクの憧れのヴィルさんの周りを、ここ最近ずっとウロチョロしている人がいた。 あれは確か、オクタヴィネル寮のリーチ先輩。 ちゃんと接触したことはないけれど、先輩は有名だから一方的に知っている。 二年生ながらにオクタヴィネルの副寮長、物腰が柔らかく紳士的で頭も良く、何でも卒なくこなす器用さ。 それでいてあの見た目。 ヴィルさんだってスラリと背が高いのに、それよりさらに高い位置に頭がある。 噂に聞いた限りだと、リーチ兄弟は人魚らしく、元の姿に戻った時は更に大きいというのだから驚きだ。 「……やっぱり、綺麗だ」 ヴィルさんは勿論、隣に立つリーチ先輩も。 見た目だけじゃなくて身のこなしまで洗練されているというか、隙がないというか。 ヴィルさんとはまた違った綺麗な人だ。 一番は絶対的にヴィルさんだけど。 遠くから寮の談話室へと向かっていく二人を眺めていると、不意に憧れの人の髪より濃い金色をした瞳と視線が交差した。 何も悪いことはしてないのに、ドキリと悪戯が見つかったような気がしてそわそわする。 そんなボクの心情など知る由もないリーチ先輩は、目線だけこちらに寄越したまま口元を緩めた。 「……見てるの、バレてた?」 「誰に?またヴィルサン?」 「わっ、エペル……!」 ボクよりも少し低い位置から突然話し掛けられて肩を跳ねさせた。 女の子と間違えそうな程愛らしい顔立ちで下から覗き込まれる。 もう慣れたけど初めは毎度ドギマギしてたな、と少し前までを思い出して笑いそうだ。 中身の雄臭い部分を知ってからはもう緊張する方が馬鹿らしくなっちゃったけど。 ヴィルさんが消えていった方を見ながら、そういえばエペルはリーチ先輩が来た初日の教育係みたいな立場だったことを思い出した。 「ねえエペル、リーチ先輩ってどんな人だった?やっぱり怖い?」 「え?……あぁ、ジェイド先輩か。 うぅん、そうだな……物腰は柔らかいし何から何まで完璧で、僕からは何も教えることがないくらいで……」 「わあ、すごいなあ、やっぱりヴィルさんに認められるだけあるなあ」 「君はほんとに寮長好きだね」 「へへへ」 そりゃあそうだ。 自分にも他人にも厳しい人だから、決して優しいばかりじゃないけれど、それでも厳しい態度や言葉の中にはしっかりと意味が込められている。 芯が通ってる。 見た目倒しじゃないその生き様の美しさにボクは憧れた。 好きじゃないわけが無い。 だからこそ、そのヴィルさんに認められたあの人が一体どんな人物なのか気になって仕方ないのだ。 ボクも彼のようになればヴィルさんに認めて貰えるのだろうか?人それぞれ出来ることは違うから全く同じにはなれないだろうけど、それでも気になるものは気になる。 彼のことが知りたい。 最近のボクの頭の中は、そればかりだった。 * そんなボクの思いが届いたのか、なんとリーチ先輩と接近するチャンスが訪れた。 寮内でちょっとした大掃除をしていたのだが、大量の本を抱えて運んでいた所リーチ先輩が声を掛けてくれたのだ。 自分の背丈より高く積み上げた本のせいで先輩がどこに立っているのかも曖昧であたふたしていると、半分以上ごっそりと奪われた。 ようやく開けた視界と安定する足元にホッと息を吐く。 改めて見上げると、いつも一緒にいるのが自分とほぼ同じサイズであるエペルなこともあって、その大きさにびっくりする。 「どちらまで?」 「地下にある書庫に運びたいんですけど……すみません、手伝わせちゃって。 こんなの一年の仕事なのに」 「お安い御用ですよ」 にっこりと綺麗に笑うリーチ先輩に、なんだいい人じゃんと噂に混ざっていた彼への恐怖や偏見の入った言葉達を笑い飛ばした。 ヴィルさんにはいつもすぐに他人を信用するのやめなさいって怒られるけど、リーチ先輩は今ポムフィオーレの人みたいだし、もしかしたら転寮するのかもしれないし、他人じゃない。 こんなただの一年にも優しく接してくれるなんて!流石ヴィルさんに認められた人だ!と内心感動しながら地下書庫の入口への扉を開いた。 ポムフィオーレの人は綺麗好きな人が多いので小まめに掃除はしてあるけど、ここは普段使われないこともあって流石に少し埃っぽい。 また今度掃除しなきゃなあ、と思いながらリーチ先輩を中へ導く。 相変わらずニコニコと綺麗に笑っているリーチ先輩は、ボクより沢山の本を持ちながら軽々と入ってきた扉を丁寧に閉めた。 どうせすぐ出るのに小まめな人だ、ボクも見習わなくては。 「重たかったでしょう、助かりました。 ここの机に置いといてください」 「かしこまりました」 手に持っていた少量の本を先に本棚へと戻しながらリーチ先輩にお願いすると、とん、と机の上に大量の本を積み置き、相変わらずな笑みを崩さない。 綺麗な深い海の色をした髪の毛が、こんな地下の古ぼけた電灯の下でも美しく、片耳でキラリと輝くピアスがまた海の底で輝く宝物のようで、何だか神々しいものに見えた。 美しい人には近寄り難いと言うが、本当にそう思う。 ぼうっと先輩を見つめていたらボクの方に向き直り、ニッコリとそれはそれは心底楽しそうな笑みを浮かべた。 なんというか、先ほどまでの綺麗な笑みと違って、なんだろう、どこか意地の悪そうな……?こんな表情を見るのは初めてで、どういうことだろう、ヴィルさんはこういう顔を見せられた時どう対応しているのだろう、とここにはいない憧れの人のことを思った。 「それで?ここまで手伝った対価として、あなたは何をしてくれるんです?」 「……え?対価?」 「えぇ、もちろん。 タダほど怖いものはないんですよ、何かをするならそれ相応の対価を頂かないと。 後腐れなくしておいた方があなたも良いでしょう?」 「な、なるほど……!」 つまり、ボクが後で申し訳なく思わないように気を使って、対価を払えと要求しているのか。 なんて優しい人だろう。 流石ヴィルさんに認められた人だ。 ボクみたいな本を一人で運ぶことすらままならない一年生にも親切にしてくれる上に、アフターケアまでしてくれるなんて!一人この感動を噛み締めていたので、一歩、また一歩とリーチ先輩がこちらに近付いてきていることには気が付かなかった。 「あなた、最近よく僕のことを見ていましたよね」 「ひえっやっぱりバレてた……!すみません、悪気はないんです……!」 「えぇ、悪意がないことは視線から分かっていますし結構なのですが……それで、少しは僕のこと意識してくれました?」 「意識、ですか……そうですね、ヴィルさんと並ぶとやっぱり双方美しさが際立つなと思いました……」 「そうですか」 ここ数日、リーチ先輩を見ていて思ったこと。 背が高くて羨ましい。 髪の色がまるで彼の出身の海の底を思わせるようで美しい。 瞳が暗闇でも輝く宝石みたい。 丁寧な物腰や落ち着いた話し方は自分とは違って大人びて見えて憧れる。 それから、それから。 次々と浮かんでくる先輩について思ったことを述べていく。 一歩、また一歩と近付いて、気がつけばリーチ先輩がすぐ眼前まできていた。 背の高い先輩の影で、ボクの体はすっぽりと覆われてしまう。 先輩が長い腕を曲げながら、まるで密着するようにボクの顔のすぐ隣を通って本棚に肘をつく。 急に近くなった距離にびっくりして、思わず手に持っていた最後の一冊の本をぎゅっと抱き締めた。 何だか妙に恥ずかしくて顔を見ることが出来ない。 「それから?他には?」 「え、と……どうすれば、あなたに近づけるかな、って……」 「僕に近づきたいですか?」 「はい、そしたらきっと、ヴィルさんも……」 ヴィルさんの役に立てる、憧れのあの人に認めてもらえる。 そう言おうと途中まで紡いだ言葉は、腕の中から突然本を抜き取られたことで遮られる。 あ!と驚いて引っこ抜かれた方へと顔を向けると、リーチ先輩が上から片手で本を奪い取っていた。 意地悪そうに尖った歯を見せて笑っているのに、その瞳の奥に心底嬉しそうな色が見えるのが不思議で、ボクに彼を理解出来る日が来るのはまだまだ先なのかもしれない。 そう思ったと同時に、唇を柔らかな感触で覆われる。 少し湿っていて、ボクの体温より僅かに低いそれは、唇の感触を確かめるように数度柔く食むと、一度離れてまた深く覆われる。 視界にはリーチ先輩の伏せられた瞼と長いまつ毛くらいしか把握できるものがない。 キスをされている。 そう理解出来たのは散々唇で遊ばれ、ちゅっと音を立てて離れてからだった。 「……え、え……?」 「対価の話ですけど」 「えっ待ってください今その話ですか……?あれ……?」 「本を手伝った対価として、僕のこと名前で呼んでくださいね。 リーチだとフロイドもいるので」 「あ、あれ……?それだけですか?」 「おや、もっと激しいのがお好みで?」 「ちがっ……いや、それより今のき、きす……は、対価ではなく……?」 「キスは僕がしたかったからしただけです」 それじゃ、後は頑張ってくださいね。 そう言って抜き取った本を正しい位置に直しながら、長い脚で入口の方へと歩いていき、いつの間にか掛けられていたらしい内鍵を外して扉を開けた。 くるりと一度ボクの方へと向き直る。 びくりと思わず震える。 楽しげに、それでいて優しさを含ませた目で見つめられ、ドキリとしたのは緊張からか、何なのか。 「僕に近づきたいのなら、もっと近くで見てくれて構いませんよ、これからも」 そう言って、今度こそ部屋から出ていった。 彼の足音が聞こえなくなって、ドッと心臓が一気に騒ぎ出す。 なんだったんだ、今のは。 夢でも見ていたのだろうか。 まさかリーチ先輩、いや、ジェイド先輩にキスをされるなんて。 どういう気まぐれなのだろう。 人魚って定期的に人とキスをしないといけないとか、そういう習慣があるの? 彼のことを知りたいと思って見てきた結果、更に彼のことが分からなくなった一日だった。 ついでに言うと、次に一体どんな顔して先輩のことを見ればいいのかも分からない。 * 「あらジェイド、アンタどこに行ってたの?」 「寮生が少しお困りのようでしたので、お手伝いを」 「……アンタがタダで手伝うわけないわよね、何を企んでるわけ?」 「まさか、親切心ですよ」 「……まあいいけど、うちの子には手を出さないでちょうだいね、面倒だから」 「それはどうでしょう」 「薄々気付いてたけど、アンタがわざわざうち選んだのってちょっかい掛けたい子がいるからでしょ、やめなさいよね!」 「ふふふ」 「もう解雇よ解雇!明日のパーティ終わったら解雇だから!」 ヴィルさんの話を受け流しながら、入学式のあの日を思い出す。 監督生さんの騒動で周りは持ちきりだったが、僕の中ではそれよりも大きな衝撃が走ったこと。 アズールがリドルさんと共にグリムさんを追い掛け回している間でさえ、ずっと目が離せずにいたのはポムフィオーレの新入生の列へ並ぶ生徒の一人だった。 式典服のフードのせいではっきりと顔が見えたのは一瞬のこと。 それでも僕の瞳ははっきりと彼を捉えて、それから脳にこびりついて消えてくれなかった。 あの頭のてっぺんから雷を落とされたかのような衝撃は一生忘れることはないだろうし、きっとあれ以上に心が震える感覚は一生訪れないだろう。 愚かにも初対面どころか話してすらいない相手にそう確信するほどの出会いだった。 その日は一日熱に浮かされたかのように体の奥が熱くなって、ふわふわと地に足つかない心地がしていたのを今でも覚えている。 そして次の日には、さてどう距離を詰めようかとずっと狙いを定めてきた。 ようやく巡ってきた獲物を捉える絶好のチャンス、逃すのはよほどの愚か者でしょう?指で唇を一撫でして、さて次はどう踏み込もうかと思案した。

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