あざみ の 如く 棘 あれ ば。 #A英 #パラレル あざみの如く棘あれば

秋アニメ「キルラキル」の各話タイトル、同じ名前の楽曲があるので調べて聴いてみた

あざみ の 如く 棘 あれ ば

「あざみの如く棘あれば」というのは、俗に言う「綺麗な薔薇には棘がある」と同義語で、外国の諺では、因果応報、自業自得といった、花を摘み取ろうという人の天罰や業、或いは花を盗もうとか、手中に入れようとした、画策した人の浅はかさ、軽率さを戒めるような意味だそうです。 名探偵金田一耕介の生みの親であり、「八墓村」「悪魔の手鞠唄」「犬神家の一族」などで有名な小説家、横溝正史。 横溝正史の作品というと、旧家、座敷牢、炎上、怨念めいた血筋、おどろおどろしい雰囲気、という勝手なイメージがあり、横溝正史っぽい小説をA英で書いてみたい!と思いました。 昔のドラマで、「横溝正史シリーズ」というものがあり、昨年テレビで放送されていて、主題歌「あざみの如く棘あれば」を聞き、何とも哀愁のある歌で印象的でした。 アニメ放送開始一周年のお祝いに投稿したくて、主題歌からいただいたタイトルを気に入っているので、タイトルだけでも見ていただきたいという思いです。 タイトルに反して、表紙の写真はカサブランカです。 前作までに、いいね、ブクマ、コメント、スタンプ、フォローして下さった方ありがとうございます。 またお見掛けいただいた時には、お付き合いいただけたら嬉しいです。 名前が日本名になっています。 フリーのライター兼カメラマン。 雑誌社の依頼で『旧家を訪ねる』という特集の取材で、古神家を訪ねることになった。 向こうの好意で、泊まり掛けでの取材を許されている。 古神家というのは、かつては金鉱山を所有していた家で、この地域のほとんどを仕切っていた。 戦後の農地解放などの改革ですっかり衰微したものの、かつての繁栄を思わせる長屋門は堂々たる佇まいで、昔を偲ばせる。 国道から脇道に入って、高台に上がったところに古神家はあった。 木々が左右に丈高く生い茂り、玄関までの敷石道を暗くしている。 玄関はまるで庄屋のそれを思わせる格子戸の古めかしい佇まいで、そこに、それだけはやけに新しいインターホンが取り付けてあった。 英二はタクシーを降り、おそるおそるボタンを押した。 しばらく待たされてから 「はい」 応じる女性の声がした。 「東京の雑誌社の奥村と言います」 「お待ちしていました」 現れたのは、三十代初めかと思われる女性であった。 容姿はまさに、普通と表現するのが相応しかったが、化粧をし、髪も清潔さを感じるように纏められ、服装も派手ではないが、女性らしく気を使ってる様子だった。 「どうぞ」 と精一杯に広く格子戸を開けた。 屋内に湿った感じがするのは建物が古いせいかもしれない。 それに立ち込める薄暗さを感じた。 スリッパを履いて廊下を行くと、右側に中庭がある。 廊下の突き当たりの襖を開けると、そこは客間で、十六畳ほどはありそうな部屋に絨毯が敷き詰められ、中国風の脚の長い黒檀のテーブルを、同じ材質の椅子が六脚、囲んでいる。 「今、旦那様がみえますから、お待ち下さい」 女性が引っ込んで、待つほどもなく、貫禄を感じさせる初老の男性と、彼とは対照的なもの静かな雰囲気の端正な顔立ちの、三十代半ばくらいの背の高い男性が入ってきた。 屋敷の主である彼は、顔の色つやや目の輝きから、若々しささえ感じられる。 英二が立って挨拶するのを 「まあ、お楽にして下さい」 と椅子を勧め、本人も腰を下ろしてから 「この屋敷の主、古神大伍だ。 これは秘書のようなことをやらせておる…」 「白木征也です。 よろしくお願いします」 「屋敷のこと、案内、何でもこれに聞いてくれ。 君はいくつだね?」 「25才です」 「若く見えるな」 頭から足先まで、じろじろ見られ、不愉快さを感じたが、英二は心を表に出さないようにした。 「それでは、儂は失礼する。 白木、あとは任せたぞ」 「はい、お任せ下さい」 古神は立ち上がり、さっさと出ていき、二人が残された。 「ずいぶん大きなお屋敷ですね」 「これでも、以前よりこじんまりとしたらしいですよ。 明治時代の屋敷は広壮なものだったらしいです。 昔は小説家が訪ねて、屋敷をイメージして話を書いたとも聞いています。 まあ、悪いこともたくさんしてきたんでしょうね」 白木の自嘲気味な言い方に、英二は少々驚いた。 「一週間のご予定でしたね?」 「はい、あの…泊まり掛けにしていただいてよかったのでしょうか?」 「毎日、お通いになるのも大変でしょう」 「ありがとうございます」 白木に、いくつかあるうちの一つの和室に案内された。 夕食は部屋に運ばれ、英二は一人で食すようにされた。 真夜中のことであった。 英二はふと目を覚ました。 外は小雨が降っているようだった。 そして半ば開いた障子の隙間から、雨に塗れた美少年の姿を、垣間見た。 少女と言っても差し支えない様子だった。 水の底から抜け出した妖精のように、そこにいた。 明るい金色の髪、白い肌、たぐいまれな美しさの彼は小雨の中、まるで踊るように、両手を広げて、華奢な体でくるくると嬉しそうに回っていた。 彼は息を殺して様子を見ている英二の方に歩いて来て、英二をじっと見た。 彼の美しい緑色の瞳としっかり目があい、彼は不思議そうな顔をして、やがてその姿はどこともなく見えなくなった。 彼が誰なのか、この屋敷の主には子供も孫もいないと聞いている。 使用人の子供だろうか。 その晩英二は、ほとんど眠れず、あの美しい少年のことを考えていた。 [newpage] 翌朝、朝食を持ってきてくれた使用人の女性、昨日英二を案内してくれた三浦絹に、英二はこの屋敷に子供がいるか聞いた。 「いませんよ」 間をあけずに、彼女は答えた。 使用人の子供もいないと言う。 それでは、夜中に見た、あの少年は誰なのか。 気になって仕方がなかったが、英二はここに来た目的を果たさねばならなかった。 英二は外に出て、屋敷の写真を撮り始めた。 白木が現れ、朝の挨拶をかわすと 「顔色が悪くみえますね」 白木に寝不足を言いあてられた。 「実は、昨夜、妙なものを見ました」 「妙なものとは?」 「昨夜、向こうの柳の木の下に、人が経っているのを見たんです。 実に綺麗な少年でした。 近所の子供でしょうか?」 「さあ、私には分かりません。 夢でもご覧になったのでは?」 白木は意味ありげな顔をして、去った。 午後、英二は白木に屋敷について取材をしたが、彼の様子は、朝英二が聞いたことなどなかったかのようであった。 もう夕食も運ばれてくるであろうかという頃、使用人の絹が、食事を載せた盆を持って台所の方から出てくるのが見えた。 英二は自分の夕食であろうか、と思っていると、彼女はこちらに気づく様子は無く、反対の方に行く。 ふと後ろを振り返り、再び前を向くと、彼女の姿がどこにもなかった。 どうしたのだろうかと、隠れるようにして見ていた。 しばらくすると、壁とも扉とも言えない戸板を押して、彼女が現れた。 隠し扉か?そこに行き、戸板を押してみると、それはくるりと180度回転する。 まるで忍者屋敷のどんでん返しの扉のようであった。 台所の方で音が聞こえ、英二は慌てて自分の部屋に戻ると、ほどなくして夕食が運ばれた。 あの隠し扉について、聞いてはいけない気がした。 夕食を終えてから、英二はもう一度あそこに行ってみた。 白木があの隠し扉から向こうに入っていくのが見えた。 あの隠し扉の向こうには、部屋があるのか? 白木が出てきた後、好奇心に勝てず、英二は扉の向こうに行ってみた。 中は薄暗かったが、奥の方は照明があるようで、明るかった。 奥に進むと、格子に囲まれた檻の中に、あの美少年がいた。 その美しさに魅いられて、英二は格子に近づき、それに手をかけた。 「誰だ?」 美少年がまっすぐこちらを見ていた。 「…僕は奥村英二、…君は…?」 「英二…?俺は亜子藍だ」 「アスラン君…?」 「アッシュでいい」 「アッシュ…」 「白木が言っていた。 俺を助けて出してくれるだろうと」 「助け出すって…?」 鍵がかけられているのが分かった。 「閉じ込められているの?」 「ああ、白木が時々、出してくれる。 夜中に見たろ?」 真夜中に外で踊っていたあれか…。 「誰に閉じ込められているの?」 「一応、俺の父親ということになっている。 古神大伍…」 「父親?何故そんな…」 「逃げ出すと思っているんだろ。 俺は母と一緒にずっとここに閉じ込められてきた」 「お母さんは?」 「俺が幼い頃に死んだ。 それから、俺はここに一人だ」 「君は何歳なの?」 「12歳。 英二は?」 「僕は25歳。 君、学校は?」 「行ってない。 だけど家庭教師は来ている。 白木がそうだ」 「白木さんが?」 「あいつは何人目だったかなぁ…。 いつも、俺に悪さをしようとして、クビになる」 「悪さ?」 「皆、俺が誘っていると言って、変なことをしようとする」 アッシュの言う、変なことというのが、初めは何のことかわからなかったが、その美しさから想像ができた。 こんな子供に?良識ある大人が、そんなことをするなんて。 健全な思考の持ち主である英二には信じられなかったが、アッシュの美しさから感じられる妖しさが、12歳の子供の持つそれでないことは理解できた。 どんな理由があろうと、こんな座敷牢に閉じ込めておくことが許されるはずがない。 「白木さんは、僕が君を助けだすと言っていたのか?」 「ああ、違うのか?」 「…」 隠し扉の方から、音がした。 「英二、隠れろ!」 言われて、何が何だかわからなかったが、そこから見えないであろう影に隠れた。 この屋敷の主であり、アッシュの父親だという古神が現れた。 鍵を開け、格子の中に入っていった。 「アッシュ、儂の可愛い息子。 いい子にしておったか?」 「ふん!いい子もくそもあるか!こんな所に閉じ込められているだけだろうが!」 「お前は、母親、莉愛に似てきたな。 あれも美しい女だった。 儂から逃げ出そうとするから、ここに入れたのだ。 お前は逃げるなよ」 英二は二人の様子を息を殺して見守った。 古神は、アッシュの両手首を、頭の上で縛りあげ、足首も同様にされた。 古神は荒い息をあげて、アッシュの体をまさぐっているようだった。 英二はアッシュの様子が心配で、出ていきたかったが、二人の不気味な雰囲気に体が硬直して、動かなかった。 古神は満足したのか、その行為は終わり、アッシュは解き放たれた。 古神は鍵をかけて出て行き、固まっていた英二の体も解放され、慌てて格子に駆け寄った。 「アッシュ、大丈夫?古神さんは一体…?」 「ふん!あいつは舐めまわすのさ。 俺の体を。 それだけだ。 俺をおもちゃにしているだけだ。 気味の悪い変態野郎さ。 何が楽しいのか…」 「君は抵抗しないの?」 「抵抗したら、縛られるようになった。 終わるまで耐えるだけだ。 あいつは一日おきに、そんな事をしにやってくるのさ」 「…」 英二はアッシュにかける言葉が見つからず困っていると、隠し扉の方から音がした。 アッシュは平然とした顔をして言う。 「心配ない。 白木だ」 「えっ?」 白木が現れて、英二を横目で見ながら鍵を開けて、アッシュを外に出した。 「英二くん、アッシュを風呂に連れて行くから、君は部屋に戻っていてくれないか」 英二は白木に言われた通りにした。 [newpage] 一時間ほど待つと、英二の部屋に白木が現れた。 「私はアッシュをあそこから出して、古神から自由にしてやりたい。 古神はアッシュの実の父親ではない。 君にアッシュを救出する手助けをお願いしたい」 「えっ?父親ではない?手助けって…?どうして僕に?僕が古神氏に言うとは思わなかったのですか?」 英二は白木の言った言葉に疑問を持つばかりであった。 「あの子の父親は…。 君が健全な精神の持ち主であることは、初対面の時にすぐ分かったよ」 アッシュの父親に関しての疑問はそのままにされたが、今は追及する必要を感じなかった。 「…そんな、あれだけで?」 英二は、白木と初めて会った時の様子を思い出した。 大した会話をしていないというのに、と納得がいかない顔をした。 「あれだけの会話でも、君がまともな普通の人間であることはわかった。 きっとアッシュの、あの状態を許せないだろうということも」 「もちろん、許せません!」 どんな理由があろうと、座敷牢に人を閉じ込めておくということを許せるはずがなかった。 ムキになった様子の英二を見て、白木はクスリと笑い、その後真剣な顔になる。 「アッシュはあの座敷牢で生まれ、母親とともにずっとあそこに閉じ込められてきた。 そして、母親が死んでからは、古神氏にあのような扱いを受けてきた。 6歳の時から家庭教師はついていたが、外に出られるのは、風呂の時のみ。 家庭教師は、彼に誘惑されたと言い、彼に手を出そうとした者が何人もいて、入れ替わり立ち替わりの状態だった。 私が来るまではね」 英二は呆然として話を聞いていた。 英二のように、普通に平凡に生きてきた人間にとっては、驚くことばかりだった。 「彼を助けるということは、古神氏を敵に回すということになり、君の今回の取材が台無しになるかもしれない。 それでもいいかい?」 取材が台無し?それは、正直に言うと困る。 しかし、仕事よりも一人の可哀想な子供を助け出すことが優先されるべきであろう。 「構いません。 それで、あの子が自由になれるのなら」 「ありがとう。 私はずっとアッシュを助け出したかったが、私には唯一の肉親の母がいてね。 私が古神に逆らうことで、母に迷惑がかかることが心配だった。 古神の力は偉大だからね。 だが先日母が亡くなり、助けだすタイミングを見計らっていた。 そんな時に、君がここに来てくれた」 「でも僕には、そんな力はありません」 「君は、あの子を外に連れ出してくれるだけでいい」 本当にそれだけでいいのか不安になったが、協力したいという気持ちに偽りは無かった。 「使用人の三浦絹、彼女も協力してくれるから」 「えっ?彼女も?」 「ああ、私がこの家に来るまでの様子も、彼女が教えてくれた。 彼女は偉大な協力者だよ」 その様子から、彼がその端正な容姿と、包容力を感じる魅力で彼女を協力者にしているであろうことが窺えた。 「君の取材には全面的に協力する。 台無しになるかもしれないとは言ったが、やはり君の仕事を駄目にしたくはないからね」 そう言われて、英二は少し安心した。 できたら取材をちゃんと終わらせたい。 「あの、アッシュを助け出して、古神氏はどうするのですか?」 アッシュを助け出しても、古神がどうにかして、元の状態に戻そうとするのではないかと心配になった。 「そのことは、私に任せてくれれば大丈夫だから」 白木の静かな様子が、逆に不安になったが、英二は言われた通りにするしかないと思った。 [newpage] 翌日から、英二は屋敷の撮影と取材をしながら、アッシュの元を訪れた。 白木にも、そうしてやってほしいと言われていた。 協力者の絹が鍵を開けて、英二はアッシュの側に行くことができた。 「鍵を開けてもらえるのなら、外に出れるんじゃないのかな?」 「時々な。 あの雨の夜中もそうだった。 雨が珍しくて、楽しくて…」 それで踊るようにしていたのか。 あの時のアッシュの様子に、英二は納得がいった。 「俺が外に出ているのを、あの親父が見つけたら、面倒なことになるからな。 もう少しの我慢だと白木が言っていた」 「白木さんのことを信用しているんだね」 「そうだな。 あいつは今までの家庭教師と違う。 あいつは俺を真剣に、ここから救い出そうとしていることがわかる。 あいつは何だか…」 アッシュは、白木について、それ以上の言葉を飲み込んだ。 英二はたくさんの本が置いてあることに気付いた。 「たくさん本を読んでいるんだね」 「ああ、ここに閉じ込められているだけだから。 本だけが、外の世界を知る手段だ」 「英二、見てくれ」 アッシュが大切そうに、ハンカチを英二に見せた。 淡いサックスブルーに、可愛いらしい野イチゴの柄のハンカチだった。 「母さんの形見だ。 俺の本当の父親から贈られたらしい」 「可愛いね…」 英二は正直な感想を述べた。 「俺の母親は、所謂ハーフというやつだった。 母の母親が外国人だったらしい。 その母親が母を置いて出ていき、母の父親は再婚し、肩身の狭い思いをしてきた。 ハーフと言ってもまるきり外国人のような外見で、田舎では苦労したらしい。 高校在学中に古神に見初められて、親子以上も年の違うあいつに、無理矢理妻にされたそうだ。 その時には既に俺を身籠っていたらしいが、俺はあいつの息子ということにされた。 逃げようとした母をここに閉じ込めて…。 母は俺が五歳の時に死んだ。 絹が、俺の顔は母そっくりだと言う。 俺の外見も、まるきり外国人なんだろう?」 英二はそう言われて困ったが正直に答える。 「そうだね。 でも、ここでは目立つかもしれないけれど、都会にいけば大丈夫だよ」 英二は、自分の言った言葉ながら、無責任な言葉を発したと思った。 白木は自分に、アッシュを外に連れ出してくれるだけでいいと言ったが、その後はどうしたらいいのか、白木に確認しておかなければならないと思った。 「俺の母親は心を病んでいたのかもしれない。 ここでずっと二人でいて…。 このハンカチが母親の宝物だった…」 アッシュの母親のことを考え、英二は無意識に暗い顔になった。 「そんな顔するなよ。 俺のことを助けだしてくれるんだろ?」 「ああ、もちろん」 13歳も年下の子供に、気を使われているのを感じ、英二は自分が情けなくなった。 「君は、本当のお父さんを知っているの?」 「知らない。 ただ古神は本当の父親ではないらしい。 母は、このハンカチは俺の父親からもらったと言うだけだった。 母は美しくて、寂しそうな人だった。 幼心にも、母が消えそうなことが心配だった。 母の事情も、俺は幼かったから、絹や白木に聞いた」 英二はただアッシュの言うことを聞いていた。 [newpage] 英二とアッシュの二人は急速に仲良くなった。 アッシュは12歳という年の割りには、細い手足、華奢な体で、年齢よりも幼く見え、英二は可愛い弟ができたような気分になった。 アッシュはずっと座敷牢で育ち、接触した人間は少なかったが、白木が来るまでに入れ替わり立ち代わりしていた家庭教師たちと、英二が明らかに違う種類の人間であることはわかった。 古神家での英二の仕事も終わりを迎えようとしていた。 白木が英二の部屋を訪れ、決行の旨を伝え、英二に一枚の名刺を渡した。 話はしてあるから、アッシュを彼の元に連れて行ってほしい。 彼がアッシュのことをどうにかしてくれるはずだ」 「どうにかって…?あなたが連れて行けばいいのでは?」 「…アッシュは無戸籍児なんだ。 古神はアッシュの出生届を提出していない。 学校にもいけないし、存在していない人間と同じだ。 彼は無戸籍を解消して、就籍できるようにしてくれるだろう」 日本に無戸籍の人間が一万人以上いることを聞いたことはあったが、アッシュもその一人であることに英二は驚き、改めて古神に許せない思いを抱いた。 「一体、古神氏は、アッシュをどうするつもりだったのでしょうか?戸籍も与えず、この先自分に何かあったりしたら…」 「さあ、あの世に一緒に連れていくつもりなのかもしれないね。 私はあの子に未来を与えてあげたいんだ。 私が古神の足を留める。 あの子をお願いするよ」 そこまで言われては、英二はそれ以上は何も言えなかった。 英二は仕事の終わりの報告と挨拶を古神にする為に、古神のいる仏間を訪れた。 彼を人として許せない存在だとは思うが、律儀な英二はそれを怠らなかった。 古神が英二に労いの言葉を発していた時、部屋にアッシュを連れた白木がやってきた。 驚く英二と古神に、白木は平然と言う。 「アッシュをあなたから解放します」 「どういうことだ?」 「アッシュはあなたの子ではない。 私の子です」 白木以外の三人が、その言葉に驚いていると 古神は他の使用人を呼ぼうとしたが、白木に両腕を後ろから拘束された。 「無理矢理あなたの妻にされた莉愛は私の恋人だった。 私は彼女の高校の教師だった。 だが彼女は、ある日学校も退学させられ、あなたのものにされた。 その時彼女は既に身籠っていた。 ずっと彼女を助けだしたかったができなかった。 せめて子供だけはと思い、家庭教師としてここに入りこんだ。 だがあなたのこの地への力が大きく、なかなかできなかった。 先日私の母が亡くなったので、やっとその時が来た」 白木が自分の父親と知り、驚いているアッシュに、白木は優しく眼差しを向けた。 「アッシュ、初めて会った時、お前の耳の形と指の形が私そっくりで驚いたよ」 耳の形が一番遺伝が出やすい場所であるという、指の形も遺伝的なものが大きい。 こんなことでも、白木はアッシュが我が子であることを感じていた。 「私はあなたのその目に、あの子が出ていく姿をどうしても見せたかった。 あなたに隠れて出ていくのではなく、堂々と出ていく姿を。 アッシュ、長い間すまなかった。 もっと早く助けてあげたかった。 これからは、外の世界で生きていけ!」 「何を言っておる!アッシュは儂のものだ!離せ!」 古神は白木に拘束されながら暴れて、白木と二人の体が傾き、仏壇にぶつかり、火の点いた蝋燭が倒れ、仏壇に火が点いた。 古く木製の仏壇にはあっという間に火が拡がっていく。 「英二君、早くアッシュを連れて行け!」 「白木!」 アッシュが白木を見ると、白木は愛しそうに、我が子を見た。 「早く行け!」 英二はアッシュを連れて外に向かった。 白木のことが気にかかったが、言われた通りにした。 「あなたには、私とこの家に残ってもらう。 莉愛の亡くなったこの家に…」 白木は初めから、そのつもりだった。 莉愛を助け出せなかった自分を責め、アッシュを助け出した後は、古神を道連れに、穢れたこの家ともども、消え行くつもりだった。 アッシュと英二が去るのを見届け、白木はナイフを取り出し、古神の頸動脈を突き刺すように切った。 血しぶきが飛び、それは白木にもかかり、古神の重い体は倒れた。 白木は古神の服で、ナイフの血を拭き取り、仏間から外に出た。 「白木さん!」 絹がやってきた。 古神の血しぶきのかかった姿に、一瞬退いたが、気を取り直す。 「早く外に出ないと!」 「私のことはいいから、あなたは早く逃げなさい」 白木は、あの座敷牢に向かっていた。 愛する莉愛の閉じ込められていた場所に。 「あなたが逃げないのなら、私も…」 「私は、あなたを利用しただけ。 あなたのことなど、好きだったわけではない…」 「それでもいい!私も一緒に…」 「私を愛する人と逝かせてほしい」 そこまで言われると、絹も何も言えなくなり、白木を置いて去った。 白木は座敷牢に着き、その中に入った。 莉愛が亡くなった同じ場所で、彼女の後を追いたかった。 ナイフで頸動脈を深く傷つけ、莉愛の美しい顔とアッシュの顔を思い出しながら、目を閉じた。 外に出たアッシュと英二は、燃え上がる屋敷を見上げていた。 出て来た絹に近づき、白木のことを聞いた。 「あの人は、座敷牢で死ぬつもりよ」 涙を流しながら彼女は言った。 [newpage] 英二はアッシュを、白木に言われた通りに、弁護士の伊部の元に連れていくことにした。 元々アッシュは存在していない人間なのだから、屋敷がどうなろうと関係なかった。 「アッシュ、行こう」 ここから去ろうとすると、アッシュは英二に風呂敷のような物を差し出した。 「白木が、英二に渡せって」 受けとると、それはずっしりと重かった。 中には、金の延べ棒が二本入っていた。 「これは!」 「当座の生活費にしろって」 1キログラムの純金の延べ棒なら二本で、900万円ほどの価値がある。 当座の生活費には、多い金額であった。 「足りないか?」 アッシュが不安そうに聞いた。 「いや、多すぎるよ」 「そうか、良かった」 アッシュが安心したように笑い、英二はこの出所に不安になった。 白木が古神から得た物だろうか?これはアッシュの為に使おうと、大切にしまった。 二人は駅に向かった。 全てが珍しいアッシュはキョロキョロとしていた。 電車に乗って座席に着くと、古神家でのことが思い出された。 信じられないことばかりだったが、英二は自分よりも、アッシュの方が不安でたまらないはずだと気づいた。 「アッシュ、大丈夫?白木さんのことは…」 「白木が俺の父親だったなんて…。 もしかしてとは思っていた…。 母さんはよく俺の耳や指を愛しそうに撫でていた…。 父さんに似ていたからだったんだな」 アッシュは隣に座る英二の膝に体を投げ出し、顔を埋め、声を殺して泣いた。 英二はその柔らかな金髪をそっと撫でた。 「側にいてくれ。 ずっとなんて言わない。 今だけでいい…」 「…ずっと側にいるよ」 [newpage] 二人は伊部を訪ねた。 伊部は、白木から聞いていたらしく、アッシュのことは、全て承知していた。 戸籍の就籍の手続きもしてくれるという。 白木が既にこの世にいないであろうことを聞くと納得しているようだった。 アッシュのことは白木から頼まれているから、と伊部が引き取ろうとすると、アッシュは英二に抱きついて離れなかった。 初対面の伊部に、アッシュが付いていくのを拒否するのは当然に思われた。 英二は、伊部にアッシュを引き取ることを承知してもらった。 白木の「あの子に未来を与えてあげたい」と言った言葉を英二は思い出していた。 そして、自分の膝で声を殺して泣き「側にいてくれ」と言ったアッシュを。 アッシュが成長し、いずれ自分を必要としなくなるまで、アッシュの両親の代わりに一緒にいてあげたいと自然に思えた。 英二が撮影と取材をした記事は、国の史跡に指定されるほどの価値のあった屋敷が消失したことにより、その最後の姿として注目され、仕事も評価された。 白木から、英二に多額の振込がされていたことから、彼は英二がアッシュを引き取るであろうことを見越していたのかと思えた。 それとも感謝の気持ちだったのか。 いずれにしても、白木の思惑を知る術は無かった。 白木は愛する女性を追い、彼女の忘れ形見を英二に託したことは、確かに偶然だった。 あの時、訪れた者が英二だったからだ。 しかし、それが英二だったことは、正しくアッシュと出会う運命だったのであろう。 「英二、本当に俺はお前といていいのか?」 不安そうな顔をして聞くアッシュが可愛いくて、英二はアッシュの不安を取り除きたい気持ちになった。 「もちろんだよ。 君が嫌になるか、大人になるまでは一緒にいるよ」 「大人になったら、一緒にいてくれないのか?」 「君も大人になったら、きっと好きな人ができて、僕はいらなくなるよ」 「そんなことにはならない!俺は大人になっても英二だけだ!俺たちは運命の二人なんだから!」 英二はアッシュの言うことを、本気にはしていなかった。 人生経験の少ないアッシュの言う「運命の二人」という言葉は本からの受け売りだろうと思われた。 無自覚に家庭教師たちを惑わしていたアッシュを守っていかなければならない。 保護者としての自覚を強くしていた。 しかし、アッシュが大人になった時、この言葉が真実であることが証明される。 アッシュは奪われていた未来を取り戻し、その未来には英二が共にいることを願った。 アッシュと将来を共にする未来になるであろうことは、まだ今の英二には想像できなかった。 終わり.

次の

#A英 #パラレル あざみの如く棘あれば

あざみ の 如く 棘 あれ ば

内容紹介 「まぼろしの人」「あざみの如く棘あれば」「あなたは何を」は、横溝正史シリーズ 1977. 1978年放送 のテレビバージョンです。 20代の「茶木みやこ」の歌をお届けします。 譜面も掲載しました。 歌詞は大きくしました。 今ライブで歌われている曲も入っています。 聞き比べるのも楽しいと思いますよ! 本格的に音楽活動を再開。 高田渡、中川イサトとツアーを行う。 「茶木みやこ撰歌」NHK「みんなのうた」ピンク・ピクルス「FOLK FLAVOR」CD復刻盤が発売される。 とにかくCDアルバムを買うのが久しぶりです。 最近はレンタルや動画で満足してることが多く、またiTunesなどダウンロードで買うことばかりでした。 しかし、このアルバムはダウンロード販売しておらず、このCDを買うほかありません。 しかし、このアルバムはCDを買うことの嬉しさ、楽しさを再認識させてくれます。 所有欲を満たしてくれるCDです。 1970年代の香りを漂わせるジャケット、そしてブックレットの中には各曲の歌詞はもちろん、簡単な楽譜まで付いているのです! これがファンサービスではないでしょうか! 聴くだけじゃなくて、奏でて欲しい、唄って欲しいというメッセージが込められてるような気がします。 そして、なにより茶木みやこの歌声、曲のメロディが心に響きます。 これこそ名曲、これこそ名盤だと思います。

次の

あざみの如く棘あれば/まぼろしの人 (茶木みやこ): のんびりMOCHA

あざみ の 如く 棘 あれ ば

「あざみの如く棘あれば」というのは、俗に言う「綺麗な薔薇には棘がある」と同義語で、外国の諺では、因果応報、自業自得といった、花を摘み取ろうという人の天罰や業、或いは花を盗もうとか、手中に入れようとした、画策した人の浅はかさ、軽率さを戒めるような意味だそうです。 名探偵金田一耕介の生みの親であり、「八墓村」「悪魔の手鞠唄」「犬神家の一族」などで有名な小説家、横溝正史。 横溝正史の作品というと、旧家、座敷牢、炎上、怨念めいた血筋、おどろおどろしい雰囲気、という勝手なイメージがあり、横溝正史っぽい小説をA英で書いてみたい!と思いました。 昔のドラマで、「横溝正史シリーズ」というものがあり、昨年テレビで放送されていて、主題歌「あざみの如く棘あれば」を聞き、何とも哀愁のある歌で印象的でした。 アニメ放送開始一周年のお祝いに投稿したくて、主題歌からいただいたタイトルを気に入っているので、タイトルだけでも見ていただきたいという思いです。 タイトルに反して、表紙の写真はカサブランカです。 前作までに、いいね、ブクマ、コメント、スタンプ、フォローして下さった方ありがとうございます。 またお見掛けいただいた時には、お付き合いいただけたら嬉しいです。 名前が日本名になっています。 フリーのライター兼カメラマン。 雑誌社の依頼で『旧家を訪ねる』という特集の取材で、古神家を訪ねることになった。 向こうの好意で、泊まり掛けでの取材を許されている。 古神家というのは、かつては金鉱山を所有していた家で、この地域のほとんどを仕切っていた。 戦後の農地解放などの改革ですっかり衰微したものの、かつての繁栄を思わせる長屋門は堂々たる佇まいで、昔を偲ばせる。 国道から脇道に入って、高台に上がったところに古神家はあった。 木々が左右に丈高く生い茂り、玄関までの敷石道を暗くしている。 玄関はまるで庄屋のそれを思わせる格子戸の古めかしい佇まいで、そこに、それだけはやけに新しいインターホンが取り付けてあった。 英二はタクシーを降り、おそるおそるボタンを押した。 しばらく待たされてから 「はい」 応じる女性の声がした。 「東京の雑誌社の奥村と言います」 「お待ちしていました」 現れたのは、三十代初めかと思われる女性であった。 容姿はまさに、普通と表現するのが相応しかったが、化粧をし、髪も清潔さを感じるように纏められ、服装も派手ではないが、女性らしく気を使ってる様子だった。 「どうぞ」 と精一杯に広く格子戸を開けた。 屋内に湿った感じがするのは建物が古いせいかもしれない。 それに立ち込める薄暗さを感じた。 スリッパを履いて廊下を行くと、右側に中庭がある。 廊下の突き当たりの襖を開けると、そこは客間で、十六畳ほどはありそうな部屋に絨毯が敷き詰められ、中国風の脚の長い黒檀のテーブルを、同じ材質の椅子が六脚、囲んでいる。 「今、旦那様がみえますから、お待ち下さい」 女性が引っ込んで、待つほどもなく、貫禄を感じさせる初老の男性と、彼とは対照的なもの静かな雰囲気の端正な顔立ちの、三十代半ばくらいの背の高い男性が入ってきた。 屋敷の主である彼は、顔の色つやや目の輝きから、若々しささえ感じられる。 英二が立って挨拶するのを 「まあ、お楽にして下さい」 と椅子を勧め、本人も腰を下ろしてから 「この屋敷の主、古神大伍だ。 これは秘書のようなことをやらせておる…」 「白木征也です。 よろしくお願いします」 「屋敷のこと、案内、何でもこれに聞いてくれ。 君はいくつだね?」 「25才です」 「若く見えるな」 頭から足先まで、じろじろ見られ、不愉快さを感じたが、英二は心を表に出さないようにした。 「それでは、儂は失礼する。 白木、あとは任せたぞ」 「はい、お任せ下さい」 古神は立ち上がり、さっさと出ていき、二人が残された。 「ずいぶん大きなお屋敷ですね」 「これでも、以前よりこじんまりとしたらしいですよ。 明治時代の屋敷は広壮なものだったらしいです。 昔は小説家が訪ねて、屋敷をイメージして話を書いたとも聞いています。 まあ、悪いこともたくさんしてきたんでしょうね」 白木の自嘲気味な言い方に、英二は少々驚いた。 「一週間のご予定でしたね?」 「はい、あの…泊まり掛けにしていただいてよかったのでしょうか?」 「毎日、お通いになるのも大変でしょう」 「ありがとうございます」 白木に、いくつかあるうちの一つの和室に案内された。 夕食は部屋に運ばれ、英二は一人で食すようにされた。 真夜中のことであった。 英二はふと目を覚ました。 外は小雨が降っているようだった。 そして半ば開いた障子の隙間から、雨に塗れた美少年の姿を、垣間見た。 少女と言っても差し支えない様子だった。 水の底から抜け出した妖精のように、そこにいた。 明るい金色の髪、白い肌、たぐいまれな美しさの彼は小雨の中、まるで踊るように、両手を広げて、華奢な体でくるくると嬉しそうに回っていた。 彼は息を殺して様子を見ている英二の方に歩いて来て、英二をじっと見た。 彼の美しい緑色の瞳としっかり目があい、彼は不思議そうな顔をして、やがてその姿はどこともなく見えなくなった。 彼が誰なのか、この屋敷の主には子供も孫もいないと聞いている。 使用人の子供だろうか。 その晩英二は、ほとんど眠れず、あの美しい少年のことを考えていた。 [newpage] 翌朝、朝食を持ってきてくれた使用人の女性、昨日英二を案内してくれた三浦絹に、英二はこの屋敷に子供がいるか聞いた。 「いませんよ」 間をあけずに、彼女は答えた。 使用人の子供もいないと言う。 それでは、夜中に見た、あの少年は誰なのか。 気になって仕方がなかったが、英二はここに来た目的を果たさねばならなかった。 英二は外に出て、屋敷の写真を撮り始めた。 白木が現れ、朝の挨拶をかわすと 「顔色が悪くみえますね」 白木に寝不足を言いあてられた。 「実は、昨夜、妙なものを見ました」 「妙なものとは?」 「昨夜、向こうの柳の木の下に、人が経っているのを見たんです。 実に綺麗な少年でした。 近所の子供でしょうか?」 「さあ、私には分かりません。 夢でもご覧になったのでは?」 白木は意味ありげな顔をして、去った。 午後、英二は白木に屋敷について取材をしたが、彼の様子は、朝英二が聞いたことなどなかったかのようであった。 もう夕食も運ばれてくるであろうかという頃、使用人の絹が、食事を載せた盆を持って台所の方から出てくるのが見えた。 英二は自分の夕食であろうか、と思っていると、彼女はこちらに気づく様子は無く、反対の方に行く。 ふと後ろを振り返り、再び前を向くと、彼女の姿がどこにもなかった。 どうしたのだろうかと、隠れるようにして見ていた。 しばらくすると、壁とも扉とも言えない戸板を押して、彼女が現れた。 隠し扉か?そこに行き、戸板を押してみると、それはくるりと180度回転する。 まるで忍者屋敷のどんでん返しの扉のようであった。 台所の方で音が聞こえ、英二は慌てて自分の部屋に戻ると、ほどなくして夕食が運ばれた。 あの隠し扉について、聞いてはいけない気がした。 夕食を終えてから、英二はもう一度あそこに行ってみた。 白木があの隠し扉から向こうに入っていくのが見えた。 あの隠し扉の向こうには、部屋があるのか? 白木が出てきた後、好奇心に勝てず、英二は扉の向こうに行ってみた。 中は薄暗かったが、奥の方は照明があるようで、明るかった。 奥に進むと、格子に囲まれた檻の中に、あの美少年がいた。 その美しさに魅いられて、英二は格子に近づき、それに手をかけた。 「誰だ?」 美少年がまっすぐこちらを見ていた。 「…僕は奥村英二、…君は…?」 「英二…?俺は亜子藍だ」 「アスラン君…?」 「アッシュでいい」 「アッシュ…」 「白木が言っていた。 俺を助けて出してくれるだろうと」 「助け出すって…?」 鍵がかけられているのが分かった。 「閉じ込められているの?」 「ああ、白木が時々、出してくれる。 夜中に見たろ?」 真夜中に外で踊っていたあれか…。 「誰に閉じ込められているの?」 「一応、俺の父親ということになっている。 古神大伍…」 「父親?何故そんな…」 「逃げ出すと思っているんだろ。 俺は母と一緒にずっとここに閉じ込められてきた」 「お母さんは?」 「俺が幼い頃に死んだ。 それから、俺はここに一人だ」 「君は何歳なの?」 「12歳。 英二は?」 「僕は25歳。 君、学校は?」 「行ってない。 だけど家庭教師は来ている。 白木がそうだ」 「白木さんが?」 「あいつは何人目だったかなぁ…。 いつも、俺に悪さをしようとして、クビになる」 「悪さ?」 「皆、俺が誘っていると言って、変なことをしようとする」 アッシュの言う、変なことというのが、初めは何のことかわからなかったが、その美しさから想像ができた。 こんな子供に?良識ある大人が、そんなことをするなんて。 健全な思考の持ち主である英二には信じられなかったが、アッシュの美しさから感じられる妖しさが、12歳の子供の持つそれでないことは理解できた。 どんな理由があろうと、こんな座敷牢に閉じ込めておくことが許されるはずがない。 「白木さんは、僕が君を助けだすと言っていたのか?」 「ああ、違うのか?」 「…」 隠し扉の方から、音がした。 「英二、隠れろ!」 言われて、何が何だかわからなかったが、そこから見えないであろう影に隠れた。 この屋敷の主であり、アッシュの父親だという古神が現れた。 鍵を開け、格子の中に入っていった。 「アッシュ、儂の可愛い息子。 いい子にしておったか?」 「ふん!いい子もくそもあるか!こんな所に閉じ込められているだけだろうが!」 「お前は、母親、莉愛に似てきたな。 あれも美しい女だった。 儂から逃げ出そうとするから、ここに入れたのだ。 お前は逃げるなよ」 英二は二人の様子を息を殺して見守った。 古神は、アッシュの両手首を、頭の上で縛りあげ、足首も同様にされた。 古神は荒い息をあげて、アッシュの体をまさぐっているようだった。 英二はアッシュの様子が心配で、出ていきたかったが、二人の不気味な雰囲気に体が硬直して、動かなかった。 古神は満足したのか、その行為は終わり、アッシュは解き放たれた。 古神は鍵をかけて出て行き、固まっていた英二の体も解放され、慌てて格子に駆け寄った。 「アッシュ、大丈夫?古神さんは一体…?」 「ふん!あいつは舐めまわすのさ。 俺の体を。 それだけだ。 俺をおもちゃにしているだけだ。 気味の悪い変態野郎さ。 何が楽しいのか…」 「君は抵抗しないの?」 「抵抗したら、縛られるようになった。 終わるまで耐えるだけだ。 あいつは一日おきに、そんな事をしにやってくるのさ」 「…」 英二はアッシュにかける言葉が見つからず困っていると、隠し扉の方から音がした。 アッシュは平然とした顔をして言う。 「心配ない。 白木だ」 「えっ?」 白木が現れて、英二を横目で見ながら鍵を開けて、アッシュを外に出した。 「英二くん、アッシュを風呂に連れて行くから、君は部屋に戻っていてくれないか」 英二は白木に言われた通りにした。 [newpage] 一時間ほど待つと、英二の部屋に白木が現れた。 「私はアッシュをあそこから出して、古神から自由にしてやりたい。 古神はアッシュの実の父親ではない。 君にアッシュを救出する手助けをお願いしたい」 「えっ?父親ではない?手助けって…?どうして僕に?僕が古神氏に言うとは思わなかったのですか?」 英二は白木の言った言葉に疑問を持つばかりであった。 「あの子の父親は…。 君が健全な精神の持ち主であることは、初対面の時にすぐ分かったよ」 アッシュの父親に関しての疑問はそのままにされたが、今は追及する必要を感じなかった。 「…そんな、あれだけで?」 英二は、白木と初めて会った時の様子を思い出した。 大した会話をしていないというのに、と納得がいかない顔をした。 「あれだけの会話でも、君がまともな普通の人間であることはわかった。 きっとアッシュの、あの状態を許せないだろうということも」 「もちろん、許せません!」 どんな理由があろうと、座敷牢に人を閉じ込めておくということを許せるはずがなかった。 ムキになった様子の英二を見て、白木はクスリと笑い、その後真剣な顔になる。 「アッシュはあの座敷牢で生まれ、母親とともにずっとあそこに閉じ込められてきた。 そして、母親が死んでからは、古神氏にあのような扱いを受けてきた。 6歳の時から家庭教師はついていたが、外に出られるのは、風呂の時のみ。 家庭教師は、彼に誘惑されたと言い、彼に手を出そうとした者が何人もいて、入れ替わり立ち替わりの状態だった。 私が来るまではね」 英二は呆然として話を聞いていた。 英二のように、普通に平凡に生きてきた人間にとっては、驚くことばかりだった。 「彼を助けるということは、古神氏を敵に回すということになり、君の今回の取材が台無しになるかもしれない。 それでもいいかい?」 取材が台無し?それは、正直に言うと困る。 しかし、仕事よりも一人の可哀想な子供を助け出すことが優先されるべきであろう。 「構いません。 それで、あの子が自由になれるのなら」 「ありがとう。 私はずっとアッシュを助け出したかったが、私には唯一の肉親の母がいてね。 私が古神に逆らうことで、母に迷惑がかかることが心配だった。 古神の力は偉大だからね。 だが先日母が亡くなり、助けだすタイミングを見計らっていた。 そんな時に、君がここに来てくれた」 「でも僕には、そんな力はありません」 「君は、あの子を外に連れ出してくれるだけでいい」 本当にそれだけでいいのか不安になったが、協力したいという気持ちに偽りは無かった。 「使用人の三浦絹、彼女も協力してくれるから」 「えっ?彼女も?」 「ああ、私がこの家に来るまでの様子も、彼女が教えてくれた。 彼女は偉大な協力者だよ」 その様子から、彼がその端正な容姿と、包容力を感じる魅力で彼女を協力者にしているであろうことが窺えた。 「君の取材には全面的に協力する。 台無しになるかもしれないとは言ったが、やはり君の仕事を駄目にしたくはないからね」 そう言われて、英二は少し安心した。 できたら取材をちゃんと終わらせたい。 「あの、アッシュを助け出して、古神氏はどうするのですか?」 アッシュを助け出しても、古神がどうにかして、元の状態に戻そうとするのではないかと心配になった。 「そのことは、私に任せてくれれば大丈夫だから」 白木の静かな様子が、逆に不安になったが、英二は言われた通りにするしかないと思った。 [newpage] 翌日から、英二は屋敷の撮影と取材をしながら、アッシュの元を訪れた。 白木にも、そうしてやってほしいと言われていた。 協力者の絹が鍵を開けて、英二はアッシュの側に行くことができた。 「鍵を開けてもらえるのなら、外に出れるんじゃないのかな?」 「時々な。 あの雨の夜中もそうだった。 雨が珍しくて、楽しくて…」 それで踊るようにしていたのか。 あの時のアッシュの様子に、英二は納得がいった。 「俺が外に出ているのを、あの親父が見つけたら、面倒なことになるからな。 もう少しの我慢だと白木が言っていた」 「白木さんのことを信用しているんだね」 「そうだな。 あいつは今までの家庭教師と違う。 あいつは俺を真剣に、ここから救い出そうとしていることがわかる。 あいつは何だか…」 アッシュは、白木について、それ以上の言葉を飲み込んだ。 英二はたくさんの本が置いてあることに気付いた。 「たくさん本を読んでいるんだね」 「ああ、ここに閉じ込められているだけだから。 本だけが、外の世界を知る手段だ」 「英二、見てくれ」 アッシュが大切そうに、ハンカチを英二に見せた。 淡いサックスブルーに、可愛いらしい野イチゴの柄のハンカチだった。 「母さんの形見だ。 俺の本当の父親から贈られたらしい」 「可愛いね…」 英二は正直な感想を述べた。 「俺の母親は、所謂ハーフというやつだった。 母の母親が外国人だったらしい。 その母親が母を置いて出ていき、母の父親は再婚し、肩身の狭い思いをしてきた。 ハーフと言ってもまるきり外国人のような外見で、田舎では苦労したらしい。 高校在学中に古神に見初められて、親子以上も年の違うあいつに、無理矢理妻にされたそうだ。 その時には既に俺を身籠っていたらしいが、俺はあいつの息子ということにされた。 逃げようとした母をここに閉じ込めて…。 母は俺が五歳の時に死んだ。 絹が、俺の顔は母そっくりだと言う。 俺の外見も、まるきり外国人なんだろう?」 英二はそう言われて困ったが正直に答える。 「そうだね。 でも、ここでは目立つかもしれないけれど、都会にいけば大丈夫だよ」 英二は、自分の言った言葉ながら、無責任な言葉を発したと思った。 白木は自分に、アッシュを外に連れ出してくれるだけでいいと言ったが、その後はどうしたらいいのか、白木に確認しておかなければならないと思った。 「俺の母親は心を病んでいたのかもしれない。 ここでずっと二人でいて…。 このハンカチが母親の宝物だった…」 アッシュの母親のことを考え、英二は無意識に暗い顔になった。 「そんな顔するなよ。 俺のことを助けだしてくれるんだろ?」 「ああ、もちろん」 13歳も年下の子供に、気を使われているのを感じ、英二は自分が情けなくなった。 「君は、本当のお父さんを知っているの?」 「知らない。 ただ古神は本当の父親ではないらしい。 母は、このハンカチは俺の父親からもらったと言うだけだった。 母は美しくて、寂しそうな人だった。 幼心にも、母が消えそうなことが心配だった。 母の事情も、俺は幼かったから、絹や白木に聞いた」 英二はただアッシュの言うことを聞いていた。 [newpage] 英二とアッシュの二人は急速に仲良くなった。 アッシュは12歳という年の割りには、細い手足、華奢な体で、年齢よりも幼く見え、英二は可愛い弟ができたような気分になった。 アッシュはずっと座敷牢で育ち、接触した人間は少なかったが、白木が来るまでに入れ替わり立ち代わりしていた家庭教師たちと、英二が明らかに違う種類の人間であることはわかった。 古神家での英二の仕事も終わりを迎えようとしていた。 白木が英二の部屋を訪れ、決行の旨を伝え、英二に一枚の名刺を渡した。 話はしてあるから、アッシュを彼の元に連れて行ってほしい。 彼がアッシュのことをどうにかしてくれるはずだ」 「どうにかって…?あなたが連れて行けばいいのでは?」 「…アッシュは無戸籍児なんだ。 古神はアッシュの出生届を提出していない。 学校にもいけないし、存在していない人間と同じだ。 彼は無戸籍を解消して、就籍できるようにしてくれるだろう」 日本に無戸籍の人間が一万人以上いることを聞いたことはあったが、アッシュもその一人であることに英二は驚き、改めて古神に許せない思いを抱いた。 「一体、古神氏は、アッシュをどうするつもりだったのでしょうか?戸籍も与えず、この先自分に何かあったりしたら…」 「さあ、あの世に一緒に連れていくつもりなのかもしれないね。 私はあの子に未来を与えてあげたいんだ。 私が古神の足を留める。 あの子をお願いするよ」 そこまで言われては、英二はそれ以上は何も言えなかった。 英二は仕事の終わりの報告と挨拶を古神にする為に、古神のいる仏間を訪れた。 彼を人として許せない存在だとは思うが、律儀な英二はそれを怠らなかった。 古神が英二に労いの言葉を発していた時、部屋にアッシュを連れた白木がやってきた。 驚く英二と古神に、白木は平然と言う。 「アッシュをあなたから解放します」 「どういうことだ?」 「アッシュはあなたの子ではない。 私の子です」 白木以外の三人が、その言葉に驚いていると 古神は他の使用人を呼ぼうとしたが、白木に両腕を後ろから拘束された。 「無理矢理あなたの妻にされた莉愛は私の恋人だった。 私は彼女の高校の教師だった。 だが彼女は、ある日学校も退学させられ、あなたのものにされた。 その時彼女は既に身籠っていた。 ずっと彼女を助けだしたかったができなかった。 せめて子供だけはと思い、家庭教師としてここに入りこんだ。 だがあなたのこの地への力が大きく、なかなかできなかった。 先日私の母が亡くなったので、やっとその時が来た」 白木が自分の父親と知り、驚いているアッシュに、白木は優しく眼差しを向けた。 「アッシュ、初めて会った時、お前の耳の形と指の形が私そっくりで驚いたよ」 耳の形が一番遺伝が出やすい場所であるという、指の形も遺伝的なものが大きい。 こんなことでも、白木はアッシュが我が子であることを感じていた。 「私はあなたのその目に、あの子が出ていく姿をどうしても見せたかった。 あなたに隠れて出ていくのではなく、堂々と出ていく姿を。 アッシュ、長い間すまなかった。 もっと早く助けてあげたかった。 これからは、外の世界で生きていけ!」 「何を言っておる!アッシュは儂のものだ!離せ!」 古神は白木に拘束されながら暴れて、白木と二人の体が傾き、仏壇にぶつかり、火の点いた蝋燭が倒れ、仏壇に火が点いた。 古く木製の仏壇にはあっという間に火が拡がっていく。 「英二君、早くアッシュを連れて行け!」 「白木!」 アッシュが白木を見ると、白木は愛しそうに、我が子を見た。 「早く行け!」 英二はアッシュを連れて外に向かった。 白木のことが気にかかったが、言われた通りにした。 「あなたには、私とこの家に残ってもらう。 莉愛の亡くなったこの家に…」 白木は初めから、そのつもりだった。 莉愛を助け出せなかった自分を責め、アッシュを助け出した後は、古神を道連れに、穢れたこの家ともども、消え行くつもりだった。 アッシュと英二が去るのを見届け、白木はナイフを取り出し、古神の頸動脈を突き刺すように切った。 血しぶきが飛び、それは白木にもかかり、古神の重い体は倒れた。 白木は古神の服で、ナイフの血を拭き取り、仏間から外に出た。 「白木さん!」 絹がやってきた。 古神の血しぶきのかかった姿に、一瞬退いたが、気を取り直す。 「早く外に出ないと!」 「私のことはいいから、あなたは早く逃げなさい」 白木は、あの座敷牢に向かっていた。 愛する莉愛の閉じ込められていた場所に。 「あなたが逃げないのなら、私も…」 「私は、あなたを利用しただけ。 あなたのことなど、好きだったわけではない…」 「それでもいい!私も一緒に…」 「私を愛する人と逝かせてほしい」 そこまで言われると、絹も何も言えなくなり、白木を置いて去った。 白木は座敷牢に着き、その中に入った。 莉愛が亡くなった同じ場所で、彼女の後を追いたかった。 ナイフで頸動脈を深く傷つけ、莉愛の美しい顔とアッシュの顔を思い出しながら、目を閉じた。 外に出たアッシュと英二は、燃え上がる屋敷を見上げていた。 出て来た絹に近づき、白木のことを聞いた。 「あの人は、座敷牢で死ぬつもりよ」 涙を流しながら彼女は言った。 [newpage] 英二はアッシュを、白木に言われた通りに、弁護士の伊部の元に連れていくことにした。 元々アッシュは存在していない人間なのだから、屋敷がどうなろうと関係なかった。 「アッシュ、行こう」 ここから去ろうとすると、アッシュは英二に風呂敷のような物を差し出した。 「白木が、英二に渡せって」 受けとると、それはずっしりと重かった。 中には、金の延べ棒が二本入っていた。 「これは!」 「当座の生活費にしろって」 1キログラムの純金の延べ棒なら二本で、900万円ほどの価値がある。 当座の生活費には、多い金額であった。 「足りないか?」 アッシュが不安そうに聞いた。 「いや、多すぎるよ」 「そうか、良かった」 アッシュが安心したように笑い、英二はこの出所に不安になった。 白木が古神から得た物だろうか?これはアッシュの為に使おうと、大切にしまった。 二人は駅に向かった。 全てが珍しいアッシュはキョロキョロとしていた。 電車に乗って座席に着くと、古神家でのことが思い出された。 信じられないことばかりだったが、英二は自分よりも、アッシュの方が不安でたまらないはずだと気づいた。 「アッシュ、大丈夫?白木さんのことは…」 「白木が俺の父親だったなんて…。 もしかしてとは思っていた…。 母さんはよく俺の耳や指を愛しそうに撫でていた…。 父さんに似ていたからだったんだな」 アッシュは隣に座る英二の膝に体を投げ出し、顔を埋め、声を殺して泣いた。 英二はその柔らかな金髪をそっと撫でた。 「側にいてくれ。 ずっとなんて言わない。 今だけでいい…」 「…ずっと側にいるよ」 [newpage] 二人は伊部を訪ねた。 伊部は、白木から聞いていたらしく、アッシュのことは、全て承知していた。 戸籍の就籍の手続きもしてくれるという。 白木が既にこの世にいないであろうことを聞くと納得しているようだった。 アッシュのことは白木から頼まれているから、と伊部が引き取ろうとすると、アッシュは英二に抱きついて離れなかった。 初対面の伊部に、アッシュが付いていくのを拒否するのは当然に思われた。 英二は、伊部にアッシュを引き取ることを承知してもらった。 白木の「あの子に未来を与えてあげたい」と言った言葉を英二は思い出していた。 そして、自分の膝で声を殺して泣き「側にいてくれ」と言ったアッシュを。 アッシュが成長し、いずれ自分を必要としなくなるまで、アッシュの両親の代わりに一緒にいてあげたいと自然に思えた。 英二が撮影と取材をした記事は、国の史跡に指定されるほどの価値のあった屋敷が消失したことにより、その最後の姿として注目され、仕事も評価された。 白木から、英二に多額の振込がされていたことから、彼は英二がアッシュを引き取るであろうことを見越していたのかと思えた。 それとも感謝の気持ちだったのか。 いずれにしても、白木の思惑を知る術は無かった。 白木は愛する女性を追い、彼女の忘れ形見を英二に託したことは、確かに偶然だった。 あの時、訪れた者が英二だったからだ。 しかし、それが英二だったことは、正しくアッシュと出会う運命だったのであろう。 「英二、本当に俺はお前といていいのか?」 不安そうな顔をして聞くアッシュが可愛いくて、英二はアッシュの不安を取り除きたい気持ちになった。 「もちろんだよ。 君が嫌になるか、大人になるまでは一緒にいるよ」 「大人になったら、一緒にいてくれないのか?」 「君も大人になったら、きっと好きな人ができて、僕はいらなくなるよ」 「そんなことにはならない!俺は大人になっても英二だけだ!俺たちは運命の二人なんだから!」 英二はアッシュの言うことを、本気にはしていなかった。 人生経験の少ないアッシュの言う「運命の二人」という言葉は本からの受け売りだろうと思われた。 無自覚に家庭教師たちを惑わしていたアッシュを守っていかなければならない。 保護者としての自覚を強くしていた。 しかし、アッシュが大人になった時、この言葉が真実であることが証明される。 アッシュは奪われていた未来を取り戻し、その未来には英二が共にいることを願った。 アッシュと将来を共にする未来になるであろうことは、まだ今の英二には想像できなかった。 終わり.

次の